つゆり映え

- 妖怪の生態観察所 -
文披31題_Day6「重ねる」


 雪希と初めて触れ合ったのはいつだったろうか。絵中(うつわ)に意識を沈ませたまま、紫苑はふと、そんなことを考えた。
 ──紫苑兄さんの手、おっきいね。
 ──そうか? 俺は生まれた時からこの大きさだからわからんが……。
 ──いいなぁ。ぼくも早く大きくなりたいなぁ。
 ランドセルと言うらしい、彼の身体には大きすぎる荷物を椅子に放って、雪希は鏡合わせのように紫苑と手を重ねた。その時見た、彼の羨ましげな顔が忘れられない。
(そうだ、それから雪希が誕生日を迎えるたびに手を重ねたがったから……。初めて触れたのは七つの頃……)
 あれから十数年が経ち、雪希が手を重ねたいとねだることはなくなった。精神が成熟した表れか、はたまた紫苑との触れ合いに意味を見出さなくなったのか。
(今年の雪希の誕生日に、俺から触れたいと言えば……あの子はどんな顔をするだろう……)
 理由があれば触れられる。でももし、理由もなく触れたいと願ったら。
 愛し子の未来を想像しながら、紫苑はふたたびまどろみに身をゆだねた。
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