つゆり映え

- 妖怪が文字を並べてる自室 -
ホワイトデーと現代版藤芦

付き合ってないかつ同棲もしてない友人軸が前提。
バレンタイン当日、偶然藤仁に気づいて呼び止める芦雪くん。
「お前、甘すぎるやつ苦手だろ。今年はビターめなやつ作ったからやるよ!今回は結構自信作でさー」
芦雪くんが差し出したのは、恐らく義理でばらまき用であろう手作りブラウニー。半ば押し付け気味だったので藤仁も抵抗する間もなく受け取ることに。
時は流れ1ヶ月後。ホワイトデーが近づきはっとする藤仁くん。
「義理とはいえ、お返しするのは人として当然だよな……」
芦雪くんに何を返そうか、藤仁は数日考え込む。
芦雪くんのことで頭をいっぱいにするうち、「芦雪は俺にとって何なんだろう」と哲学の思考へ。彼のことは友人として好きだし憧憬のひとだけど、近頃は芦雪くんが楽しげに誰かと会話しているのを目撃したり、藤仁以外の誰かの名とともに「この前○○がこういうことしてて」などと嬉しそうに話しかけてくるのに何故かもやもやする自分がいる。
くれたブラウニーだってなんの意味もないもので、たまたま近くで見かけたから余りものを情けにくれたのだろうと思うと、藤仁はますますいらいらしてしまう。
「俺だって君と話したい」「俺以外の前で楽しそうに笑わないで」「君の一番になりたかった」なんて不可解な気持ちだけがどんどん強くなっていって、でも自分は口下手でどうしようもなくて小心者で伝えることも怖い。
ならば、贈り物に自分の今の気持ちを託せば……ホワイトデーでその手のものを贈れば、少しでも伝えられるかもしれない。
そう思い至り、藤仁はマドレーヌを作って渡すことを決める。
いよいよホワイトデー当日。芦雪くんの姿を探して声をかけ、なんでもないように「……バレンタインのお返し」なんて無骨にマドレーヌを渡す。
芦雪くんはきょとんとしたあと、跳ねるような笑い声とともに悪戯っぽく笑んで、「ありがと!」て礼を言って大事そうに胸元に引き寄せる。
たまらない気持ちになりつつも、藤仁がじゃあ、と背を向けて帰ろうとすると、
「藤仁。俺のこと好き?」
「……なんだ、急に」
「俺はお前のこと好きだよ。もっともっと仲良くなりたいなって思ってる! 藤仁はどう?」
マドレーヌを掲げながら顔を覗き込まれ、そこでマドレーヌの意味に気付かれていたことを悟る藤仁。
「……俺も好き」
今にも消え入りそうな声で、羞恥とともに曖昧な気持ちを呟けば、芦雪くんは(文字数)畳む

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