つゆり映え

- 妖怪が文字を並べてる自室 -
天涯後日談短編「君の声」覚書

結構前に書いたまま修正もせず放置していた短編「君の声」をようやく修正。
先日投稿した天涯のお茶濁し表紙イラストがきっかけ。
「君の声」は、「天涯比隣」の遠き未来の後日談になります。
いつだったか、芦雪と藤仁の結末の詳細を決めた直後に浮かんだ話です。白昼夢ですか???

以下からはいつも通りのダラダラ覚書です。当時どういう意図で書いていたのかのメモが復元できたので未来の自分のために書いていきます。

内容
・箱庭について
・紫苑について
・雪希について

箱庭とは
話の最後にも明かされている通り、箱庭とは美術館のことです。「さかい美術館」という私設美術館になります。
現代の美術館では、「ホワイトキューブ」と呼ばれる形態で作品の展示がされています。ホワイトキューブとは、余分な凹凸や装飾が無い「白い天井に白い壁の白い立方体」内に作品を設置する手法のこと。
それが美術館のフォーマットの一つでもあるため、箱庭がより美術館だと分かりやすくなるよう、冒頭に「白壁」、「白い石畳(大理石)」と白の表現を多用していますが、私の筆力の問題で伝わっているかは不明。
また、作品保存の観点から美術館では空調や照明まで厳重に調整されているため、やわい光や風の描写でそれも表そうとしたけど修正前はなんかよくわからんかった。なのでちまちまと修正。結果今でもよくわからん読みにくいびっくりした……。

紫苑について
本編の最後に紫苑自身が述べている通り、紫苑はさかい美術館に展示されている絵のひとつです。厳密に言えば絵に宿る異形の魂、四魂。
紫苑の絵は、作中で幼い雪希が読み上げた“うしろあさず”、いわゆる「後朝(きぬぎぬ)図」と命名された掛軸の絵になります。いわずもがな芦雪の作品です。
芦雪が描いた後朝図、そして紫苑の髪色が“くろとびいろ”に表現されていることから、もう誰をモデルに描いたか分かりやすすぎる。しかも芦雪が過去それに縋ってるのもあまりに分かりやすすぎる私だけが楽しい地獄仕様。地獄美味しいね。
紫苑の名の由来は花の紫苑から来ており、花言葉である「追憶」がモチーフになってます。畳み掛ける地獄。芦雪が生前、紫苑を紫苑として見ていたのかは本人のみぞ知るところ。

ちなみに、「後朝図」は実際の絵画を元にしています。
ウィリアム・メリット・チェイス作の「Back of a Nude」と検索してみて頂ければ、紫苑の絵としてのイメージがつきやすいやもしれない。本家は女性の背中の絵。
アメリカのナショナル・ギャラリーが所蔵している絵画なのですが、現地で目にした際、あまりに綺麗な美人画で言葉を失ったことがあり……。今でも深く印象に残っている作品です。

雪希について
四魂である紫苑を絵の中から呼び出せる青年です。芦雪の生まれ変わりであり、血縁上は松乃の子孫に当たります。
紫苑と交流を重ねていたのは七~十八歳まで、姿を消したのは二十二歳の頃、再会したのは二十五歳の時。
生みの親を失った四魂は本来、特別な力を持つ人間・直霊の鑑定士と呼ばれる存在でないとこの世に顕現することは叶いませんが、生みの親(芦雪)と同一の魂を持つ雪希が紫苑を呼び出せるのは当たり前だったりします。直霊の鑑定士である松乃ちゃんの血が残ってることも関係してるかもしれん。知らんけど。
祖先である松乃に負けず劣らず絵を愛する雪希は幼い頃、絵画の紫苑に一目惚れしています。初恋が絵画。結構危ない。言葉をかわせるのでますます危うい。
雪希は紫苑を本当の人間のように大切に思い、紫苑がこれからも永きにわたって生きていけるよう、彼を守れる学芸員になることをかねてより決めていました。健気だね。
訪問回数が減ったり、また途中で姿を消したのも、故郷から遠く離れた大学・大学院で絵画の研究に打ち込んでいたためです。
専門は日本の近世美術。特に芦雪について研究しています。
執念にも似た想いはやがて実を結び、物語の最後でも自ら述べている通り、さかい美術館の学芸員となって紫苑のもとに帰ってきています。
元々、彼の父親がさかい美術館の上席学芸員だったこともあり、美術館や絵画とは古くから縁がありました。紫苑がひどく恐れていた「岡っ引き(展示室の監視員)」と雪希がかつて気軽に話していたのも、その繋がりがあったためです。つまりは親の権力駆使してたって寸法!おもろ!
流石に、雪希ももうそんなことする年齢ではないのでひと安心です(本当に?)

蛇足ですが、「雪希」の名の由来は芦雪から来ています。彼が死に際に「藤仁にもう一度会いたいとこいねがったこと」が由来。あまりに単純。百合の名づけ方はゆーて大体こんなもん。

以上おわり!畳む

#覚書