MEMO
はしがき
ほぼ一年ぶりの記事更新になります。お久しぶり。
ずいぶん前(2025.9.19)に、拙作「天涯比隣」が3周年を迎えました。
お祝いのお言葉をくださった方、周年記念に刷った新刊をお手に取ってくださった方、誠にありがとうございました。
ようやく身辺が落ち着いたので、今回は周年時の話でもしようかと思います。
例にならって長いので、興味のある部分があればそこだけご覧下さい。
周年といえば深海さま
本サイトや各SNSで口にしまくり、あわよくばいろんな方々に知ってもらいたい最高イラストレーター・深海さま。
本サイトの記事でも何度かご登場頂いており、また拙作「天涯比隣」シリーズの装画を一手に引き受けてくださっている方です。いつもありがとうございます大好きです!!
天涯は周年ごとに本が出るシステムになっているので、深海さまに装画を描いて頂く機会もおのずと年に1回ほどになっています。
毎年、深海さまに依頼資料を送付するたびに「今年もこの季節がやってきましたな……」と思っています。
もはや季節まで感じさせてくださる御方なのです。森羅万象?
そんなこんなで、今年の天涯3周年の新刊「秘抄」の装画も深海さまにご担当頂いています。
そしてなんと……今回は……コミックスまで描いて頂いております……!
新刊冒頭に2ページ分、藤芦えちちちちコミックスが……あります!!!!!
こちら、実は装画とリンクしてるシーンでもありまして……。
後述しますが、コミックスは「秘抄」に収録されているとある短編のセッ直前シーンを、装画はその事後の二人を表しています。最高すぎるびっくりした。
夢にまで見た「俺のこと、早くめちゃくちゃにして?」芦雪くんが存在している……!?!?!
藤仁の藤仁を咥えてかすかに下がる厚いまつげ、焦る藤仁の顔、天の川のごとく広がる豊かな髪……。
うつくしい線がかたどる黒と白の淡々とした世界がなぜこんなにも情緒豊かにそしてえちちに仕上がるのか……なぜ……? 今でも小首を傾げるばかり。
深海さまはなんでもできるびっくりした毎年びっくりしています。
ちなみに、セリフ&吹き出しなしのコミックスデータも納品して頂いたので、隠されていた藤仁の藤仁や芦雪くんのすべすべお尻がきれいに見れて余計元気になりました。
えちちは健康に良い。風邪をひいたらお医者さんにはこの藤芦を処方してもらおうと思います。
新刊「秘抄」の装画について
前述した通り、「秘抄」の装画とコミックスは本刊に収録されている短編をもとに制作頂いています。
その元となった短編が「其は友のかたちして」です。
どういった話かと言いますと、「藤仁が写楽のコスプレしてそのまま芦雪とセッする話」です。身も蓋もなさすぎる。
もう少し具体的なあらすじは以下の通り。
絵の取材のため、遠出ついでに紅葉狩りに行こうと計画する藤仁と芦雪。
紅葉狩りの日まであと少し、とその日を心待ちにする藤仁だったが、突然養父から歌会へ出席するよう頼まれてしまい、紅葉狩りはあえなく中止に。
すっかり意気消沈し、またこの日の埋め合わせをしたいと申し出た藤仁に対し、芦雪は「なら、写楽の格好をした藤仁と街に出かけたい」と言い出して……?
この「其は友のかたちして」は、私の中では思い入れのある短編でもあります。
「受け優位の話が読みたい」という欲望、「藤芦がもっとも幸せに過ごした時期」という設定、「紅葉と藤仁」という特別な題材、「藤仁と芦雪の関係に横たわる写楽のその後」の答えを全部ぶち込んだ短編なのです。
装画は、その「其は友のかたちして」の舞台裏と言いますか、そのアフターストーリーとしての役割も担って欲しい、読み手に別ベクトルからも楽しんでもらえたらいいなと思い、深海さまに制作を依頼しました。
……というのは建前で、「すけべな匂わせ藤芦が見たい」欲望99%のきもちから今回依頼を出しました。
欲望に素直すぎる自分が怖い。
そんなこんなの前置きはそろそろ終わらせつつ、一旦ここいらで装画の全貌を見て頂こうかと思います。
1~2巻やブックケースの装画時と変わらず……いえそれ以上にうるわしい「絵画」……。
色が空気が音が、ふたりを取り巻く世界すべてがうつくしいでしょうそうでしょう人類……。
今回は天涯の世界観訴求を優先して頂いたので、よりそう感じるのかもしれません。
尋夢庵を包む午後のやわらかな日差し、身を静かに整える藤仁に、あふれるような満面の笑みでじゃれつく芦雪。そのそばには、脱ぎっぱなしの袴と面布が横たわっていて、つい今しがたまで互いの身を乱し合っていたのが窺えます。
今にもふたりのひそやかな笑い声が聞こえてきそうだなと感嘆の息をこぼすと同時に、あふれんばかりの光と幸せにあてられて百合の身体は消し飛びそうです。鬼だったら死んでいます。鬼じゃなくて良かった。そうでなくても助けて欲しい。
ファーストインプレッションからして強烈なものがあるこの装画なんですが、今回はぜひ以下のポイントに着目して見て頂けたら嬉しい~~の極みです。よろしくお願いします!
解説なしで自由に見たいや!という方は次の項目まで飛ばしちゃってください。
装画の舞台
思わず前述してしまいましたが、今回の装画の舞台はずばり、尋夢庵です。
怪画を従え市井に尽くす謎多き怪画絵師・写楽が住まう庵とはこの庵。
作中で出てきた尋夢庵、実はこんな感じでした。今後のイメージ参考にして頂ければ幸いです。
写楽の正体が判明して以降、雨で世界が閉じられれば、藤仁と芦雪は時折ここで身体を重ねていました。
友と思い出を重ねた場であり、ふたりの閉鎖的な関係を示す空間でもあった場所が、今回の装画によりまた別の意味を持ったように思えます。嬉しい。
この尋夢庵をぐるりと見れるように、装画内で「視線誘導」にもご配慮頂けてるのがまた胸アツポイントです。
というのも、装画を見た時、藤芦ふたりの朗らかな笑みにまず目がいき、そこからふたりの身体へ、身体から写楽の帯、帯先の行方を追えば脱ぎ捨てられた袴と写楽を示す面布に行き着き、その後管理する者の性格が窺える書棚(後述します)、尋夢庵の特徴である円窓まで行き着きます。
ひとつひとつのものが繋がって左から右へ移動していく動線が、まるで絵巻物を見ているようではないですか……!?
これは舐めるように視線が無限周回してしまうのも無理はありません。百合はそうでした。皆さん、頼みましたよ……!
なお余談ですが、今回の文庫本の表紙は紀州色上質紙の「鶯」にしています。
これは装画全体の色味合わせ以外に、尋夢庵の四魂・雛梅(※鶯の四魂)、そして写楽の着物の色とリンクさせたためです。全部が写楽仕様ダブルミーニング。
こういうところにこまかな遊びを仕掛けるのは楽しいですね。またやりたいです。
狂い咲きの桜
狂い咲き、という表現は、江戸時代の美術に時折見受けられるものです。
特に「秋に桜の狂い咲き」が有名で、吉祥のモチーフとして愛されたのだとか。
現代では、狂い咲きはなんだか良くないものの象徴のようにも捉えられがちですが、かつての時代では老境からの好転を示したそうで、藤仁のモデルとなった絵師・鈴木其一も愛した画題と言われています。
そういう背景もあって、装画の元となった「其は友のかたちして」の中でも藤仁と芦雪に「秋に桜の狂い咲き」について話してもらっていたりします。
狂い咲きの表現は2巻の朝顔でも取り入れて頂いたものですが、なんと今回の装画でも狂い咲き要素がさりげなく仕込まれています。それがこれ。
ちいちゃい! なんともちいちゃい桜と紅葉! 可愛い!
庭に面した廊下にちょこんとあるのがまた憎いですね!
もちろんこれも深海さまのしわざ(言い方)です! 素敵なご提案に百合のいのちはいくらあっても足りない。
深海さまのこういう思慮深くてさりげなくモチーフに意味を含ませる発想と手腕と画技が百合は大好きです。
この秋の桜が、藤仁と芦雪のこれからを照らす好転の兆しになれば良いなと思っていますが、はてさて……。
置かれた書棚
円窓のそばに置かれた書棚。これも天涯の作中に出てくるもののひとつ。
2巻 第十七筆「良師」にて芦雪が納品帳記を探していた折に、藤仁の過去の画帳を見つけてしまう、あの書棚です。
この書棚、二段造りになってるんですが、よく見ると一段目と二段目で様子が違うんですね。
一段目はきれいに整えられているのに、二段目は紙束が乱雑に突っ込まれていたりして粗雑な印象です。
というのも、一段目は藤仁の父・綾信から受け継いだ画帳だったり、綾信関連の書物を収めています。ゆえに整理整頓がされている。
しかし、二段目は藤仁自身の画帳やそれに関連した書物……時に、わけあって流屋の自室には置いておけない書物を収めている場所だったりします。
つまり、芦雪が発見した芦雪の表情を模写した過去の画帳がここにあったのも、松乃や芦雪に見つからないように隠したためです。乱雑なのも人の手が入りにくくするため。
藤仁、思春期の男の子がえっちな本を隠す時と同じ要領で隠してますね、己の画帳を。そこに芦雪の表情を写したものもあるわけですから、もしかしたらそういうことにも使っていたのかもしれないですね。
何せ、そのページには「開き癖がついて」いて、そこに「水仙の押し花」が挟まっていた、と芦雪が2巻で見つけてしまっているので。
そんな裏話はさておき、その「各書物への扱いの差」が装画内でも明瞭に描き分けられているのがお分かり頂けるだろうか。
特に二段目は、書物間に大きな“ズレ”やそもそも書物にすらなっていない紙束を押し込むという表現を付与することによって、乱雑さをより強めています。すごすぎ!
しかも、山吹色の表紙がちらりと見えて、それ納品帳記や……! とやはり作中の小ネタをしのびこませている! 深海さまのそういうところが百合は(以下略)!!
装画のメインではない、こまかな家具ですら丁寧に描くことで、世界観に奥行きと厚みを持たせてくださってるんだな~~と百合は今日も大の字になっています。
カラーの映り込み
今回は世界観重視の装画なので、世界を取り巻くものに目が行きがちなんですが、実は藤芦にもある仕掛けが……。
そう、オタク大好きお互いのイメージカラーの映り込み! 今回もお互いの瞳とまつげにさりげなく映り込んでる!!
それほどに近い距離にふたりがいる&お互いしか見えてない閉鎖的な空間を示していて最高~~!!!
画像拡大オタクの百合じゃなかったら見逃してるね!のきもち。
深海さまはほんとに百合に黙ってさりげなくしれっと嬉しい要素を仕込んでくるからいつも百合は(以下略)!
印刷の関係でつぶれてしまって見えないんですが、実は仕込まれてましたカラーリング。この場で見て欲しいカラーリング。
動く藤芦見たくない?
──動く自カプを見たくないか?
創作者なら誰もが一度は考えることだと思います。百合も何度考えたことか。
なんなら世界観を彩るオリジナル楽曲とかも夢ですよね。
なので動かしてもらいました。(!?)
音楽も作ってもらいました。(!?!)
社会人になってあるていどの財を成すと、こういう願望も簡単に叶えてしまえるんですね、よくない大人になってしまいました。
お金こそパワー。困ったらお金で解決。よくないよくない。
なんなら天涯は3周年だし良いよね!という悪知恵と言い訳も働く悪い大人になりました。
ご縁があって、動画は今田まだみさんに、楽曲はdamaさまに制作頂きました。
その技術の結晶最高PVがこちらです。見ると人生が豊かになります。
今回は新刊PVなので、既存向けの訴求を強めにした構成になっています。
自身の頭の中、文章の中でしか存在しなかった者たちが、深海さまの絵によってこうしてかたちになり、今田さんの技術によってふたりの関係性をあざやかに示す動きが付き、damaさまの楽曲によってふたりを取り巻く世界に音がついて……。
未だにPVを見ると夢かな?と思うことがあります。夢じゃないよ。
動画では一瞬なのですが、藤仁と芦雪、実は動いています。髪がかすかに揺れたり、顔が動いたり。実写?
落ち葉舞うエフェクトや、各所からお言葉を頂いたセリフが浮き出る演出は、全て今田さんのご提案によるものです。
オタクのツボを押さえているさすがの提案すぎて、当時膝を打ったのはここだけの話です。
なお、セリフの浮き出しの背景の色は藤仁・芦雪各々のイメージカラーになってるんですって。そんなのオタク大歓喜してしまう。ありがとうございます。
楽曲については、フルバージョンだと3分弱ある壮大なものになっているんですが、PV秒数の兼ね合いで30秒しか出せておりません……。あまりに無念……!
曲は出会い、別れ、再会をテーマにして頂いており、PVでは別れから再会へ向かう部分を使用しています。
いずれ、公式サイトに楽曲コンテンツのページを作ろうかと思っているので、そこでフルを聞いて頂ければ嬉しい……!
damaさまの転調アレンジや、和楽器縛りではないのにちゃんと和風に聞こえる引き出しの多さには脱帽です。その感性が好き。ありがとうございます。
いつか藤仁と芦雪のキャラPVも出せたら嬉しいな~~と画策中です。
一度動いてる藤芦を見ると、もっと見たくなってしまう不思議。人間の欲望には底がありませんね、こわやこわや。
以上、周年なので藤芦を顕現させた話でした! ここまでご覧頂きありがとうございます!
何かございましたら、お気軽にWaveboxまで!



