Afterword

解説「流屋(母屋)の間取り図」

つい先日、ふと必要に駆られて、流屋の母屋の間取り図を書き起こしました。
今回は未来の自分のためにも、その解説を覚書としてしたためておこうかな~と重い腰を上げた次第。えらい。本稿を書き起こすために作業通話に付き合ってくれる友人に陳謝。
例にならってばかみたいに長いので、下記気になった項目があれば、それのみご覧ください。

前書き

これまでの作中では、藤仁や芦雪、そして松乃の動きをある程度見せられれば問題ないということで、「流屋の母屋にはどんな部屋があって」「芦雪には大体どれくらいの広さに見えていて」「普段三人はどこで過ごしているのか」ぐらいの大枠情報しか描写しておらず、詳細な位置関係や広さは省いておりました。
百合はただでさえ文量がかさむタイプの妖怪文字並べゆえ、建物の描写まで詳細にすると、余計長ったらしくなると踏んでのことです。

しかし、頭の中に思い描いていた間取り図をいざ書き起こしてみると、自分でもよく分かっていなかった部分がちょこちょこ出てきたり……。
そもそも、町の様子は細かく調べていても、当時の家の造りはそこまで細かく意識してなかったなぁ、というボロが出ました。
お前は一体、何のために「建築知識2022年8月号と2023年9月号」を買ったんだ! もっと読み込め! 状態。日々の勉強不足を今になって痛感。がんばろうね。
そんなこんなで、うんうん唸りながら通勤電車の中で図面を引き、帰宅後に布団の中で手元にあるいくつかの資料を広げつつ、図面全体の整合性を図り、夜明けとともに完成……。
雨降る真昼間に目を覚まし、スマホをつけると、ファンタジーみあふれる間取りがそこに堂々と生成されておりました。どうして。
時代考証の観点から言えば思うところは多々あれど、これは創作なので……! の言い訳が頭の中をよぎる。
多少のファンタジーはゆるされたい! そもそも藤芦の髪型自体ファンタジーだが! ゆるされたい!
天涯のこれまで、そしてこれからのストーリー展開上、この間取りにならざるを得ない! ゆるして!

そんな葛藤のもと、流屋の母屋の間取り図をここに公開。
部屋の名前もわかりやすくするため、非常に現代的なので閲覧注意です。
𝕏には絶対にあげられないので、ここでたらたらと解説を綴っていきます。

間取り図の全体

主に母屋の北側に藤仁、松乃、琳也、野菊らの部屋があり、南側には日々の生活を送る部屋(居間や台所、縁側など)や客間があります。
南西側には芦雪の自室にと宛てがわれた空き部屋があり、また芦雪が守信の四魂を初めて使役した場所である六畳間があります。
また、記載はしておりませんが、画面外の西側には流屋の絵屋「翠雨庵」があり、江戸の繁華街のひとつである「通南」に面しています。
松乃や野菊は、日中は絵屋で店に立っているため、二人は絵屋と母屋を繋ぐ歩廊を頻繁に利用しています。
他にも、作中で芦雪や藤仁が出入りしている戸は、この歩廊のある裏口であり、使用している土間も西側のものになります。
東側の土間は、台所を使用する松乃や野菊しか出入りしていません。

母屋の中央には、作中よく登場する居間があり、その南側にこれまた頻出する縁側があります。
ここで芦雪と藤仁は互いの名を呼び合うようになり、また2人が星月を肴として時折酒を飲むようになる、いわば2人の心の交流を行う場所、および物語のキーポイント的な場所となっています。
居間の隣にある茶の間は、流屋に所属する門弟たちが昼餉を食べる際に使用します。作業で遅くなった時には、夕餉や間食もここで済ませるようです。
反対に、藤仁や芦雪、松乃は居間で食事をとっています。

最後に東側ですが、表座敷(客間)や玄関らは、普段の生活においては芦雪も兄妹も使用しません。
形式ばった客人(流屋と懇意にしている豪商など)が訪ねてきた際のみの使用となります。
文庫版第四筆「比隣」において、芦雪が流屋で初めて目覚めた時に寝かされていたのも、この客間です。

部屋数に関しては、見ての通り台所などを含むと、およそ20部屋前後。
広さは家屋だけにして、大体80~90坪、母屋と絵屋の建つ土地も含めると、300~400坪程になります。
江戸時代の上級武士たちの持つ土地および屋敷の広さはおよそ500坪以上、大名屋敷はおよそ3,500~4,000坪ほどとされていますが、流屋の母屋は上級武士に近い屋敷の広さです。
商家とは思えぬほどの広大な敷地と屋敷を持つ流屋は、一般商家の造りをしておらず、武家屋敷に近い造りになっています。
上記理由は、琳也の出生の関係や現在の藤仁・松乃兄妹の身分にも関わる部分なので、一旦ここでは省きます。
そのうち本編で公開されることでしょう……(本当に?)。

ちなみに、坪といってもあまり大きさに実感がわかないので補足ですが、現代の一般家庭の一戸建て(土地含む)の大きさはおおよそ50~60坪です。流屋の母屋の広さは、その7、8戸分になります。広すぎ。
都内一人暮らしの一般的な広さである6~7畳1Kの部屋だと、およそ3~4坪。流屋の母屋はその100部屋分の広さです。もはや想像つかん。
そんなこんなで、芦雪たちが日頃生活している屋敷はあまりに広大ということがわかります。

  間取り小話Q&A

Q.作中で藤芦は頻繁にセッしてますけど、母屋のどこでしてましたっけ?
声とか聞こえたりしないんですか?


A.母屋で身体を重ねる時は、藤仁の部屋か芦雪の部屋でしています。
母屋外だと尋夢庵。職場で盛るな!の一言に尽きる。
江戸時代の家の造りは、(地方にも寄りますが)夏の暑さに備えるために壁が薄いので、最中に濁点ありの喘ぎ声出してたら他の人間に聞こえるんちゃう!?!?問題はごもっとも。
とはいえ、藤仁の部屋も芦雪の部屋も西側の奥の方、一方松乃らの部屋は東側の奥、かつ屋敷は広大なため、芦雪や藤仁の喘ぎ声は聞こえていないものと想定。
これで、安心して二人を喘がせられるわけです。やったね!(?)


Q.庭が3つあるけど、誰が手入れしてるの?

A.石庭、苔庭、中庭のうち、中庭のみ藤仁が手入れしています。それ以外は流屋の番頭や野菊が定期的に世話しています。

藤仁は草花図を描くうえで、自分で庭の花の世話をしたり、尋夢庵の水仙や藤の世話をすることで、草花の特徴を目と手で得ています。
……が、実質は園芸趣味といっても過言ではありません。

撫子の花の状態が悪かった折は、わざわざ鉢に植え替え、自室で甲斐甲斐しく世話をしたり、時には気に入った花に名前をつけて密かに可愛がるほどの熱の入れようです。ちいさきいのちに弱い男。
ちなみに、虫は全く苦手ではありません。むしろ可愛いと思っている節があります。
芦雪が藤仁に絵の指南を請うようになってからは、二人で虫の動きや体つきをつぶさに観察しては画帳に描き起こすこともしばしば。
芦雪のお気に入りは、かたつむりとなめくじのようです。
そんな藤仁が育てた愛すべき妹、松乃も虫は平気ですし、野菜についてきた芋虫を手のひらに乗せ、「兄上! 見てください! 芋虫ですよ!」って見せに来たりします。
墨愛づる兄妹というより、虫愛づる兄妹。

最後の方はなんだかんだ話がそれた気もしないでもないですが、自身の覚書のためでもあるので、これで良しとします。
以上、間取り図解説でした!
ここまでご覧頂きありがとうございます!