Afterword

第二十六筆「後朝」

【あらすじ】
互いの想いが通じ合い、晴れて恋仲となった芦雪と藤仁。夢見心地のままに蓮見を終えて流屋へと帰ると、芦雪の友人・ゆきが「昨日の忘れ物を届けに来た」と流屋を訪れていて……?

前話でようやくくっついた芦雪と藤仁ですが、本話は二人が恋仲になったその日の夜以降の話になります。
今回は以下目次で解説のような書き散らしをお届け。
※クリックするとその内容に飛べます。

行成について

出したい時に出せたな~という気持ちです。自己満においては計画的にこなしていく百合。
Web版では第十五筆「仮面」にて初登場した「ゆき」。蓋を開けてみると、実は幸之介の懐刀(側仕え)で、芦雪の江戸での生活を陰ながら守護する「行成(ゆきなり)」であったことが判明しました。
そもそも、芦雪と行成が交流を深めていた理由としては、同じ酒好きだったというのもありますが、芦雪が作中で語っていた通り以下の共通点があったためです。

・京出身であること
・幼い頃は病弱であったこと
・日本橋で働いていること

ただ、これらは6割の事実と4割の嘘が混ざっています。芦雪に近づくため、多少の嘘も必要と考えた模様。
まず行成の出身についてですが、これは半分嘘で半分事実です。というのも、彼は江戸生まれではあるものの、幸之介に仕えるようになってから京に身を置くようになったためです。
行成は将軍家の御庭番として代々仕えている御家の長男で、その要領の良さから御用に必要な武術は十代にして一通り覚え、またほんの短時間のうちに人の懐にするりと入っていけるほどに人心の扱いに長けていたことから、将来も嘱望された子でした。
しかし、父の代役として遠国御用のため京へ赴いた際に幸之介と邂逅。その後なんやかんやあって、仕える相手を将軍家から幸之介に変えたという経緯があります。
また、日本橋で働いているというのは(潜伏先という意味では実質)事実ですが、幼い頃は病弱だったというのは末の実弟のことで、自分のことではありません。
ちなみに「行成」という名は、幸之介に仕える際に「貴方の名と同じ音か字が欲しい」と幸之介にねだって付けてもらったものになります。
芦雪が飲みの席で「ゆきという女のような名が気に食わないのなら改名すれば良い」と勧めるとぷりぷりと怒っていたらしいエピソードも、幸之介に付けてもらった名だから変えるはずがないという意味でぷりぷりしていました。
幸之介が命な行成の活躍に今後も期待。

藤仁と月夜

やけに親しげなやり取りを交わす黒猫の四魂と謎多き攻めの男。ここの関係性については、既に別拙作「色彩~」の方では明かされている通り、月夜にとって藤仁は「主(あるじ)の息子」にあたります。
第二十三筆「来訪」のAfterwordでも書き散らしておりましたが、月夜は采梅の四魂ではありません。主(あるじ)に采梅のお守りを託されただけです。
そのため、年齢で言うと月夜は藤仁よりも年下にあたり、彼にとってはもう一人の妹のようなものです。人外だけど。
一方、月夜はというと、自身を甘やかす松乃のことは好きですが、今話のように会えば行儀の悪さを叱る藤仁のことは嫌っています。今の主である采梅はいつもどこかしら抜けているので目が離せず、それでいてわがままで世話のやける弟と言った目線で見ているようです。
つまり、月夜の思考年齢は幼女と一緒。四魂なのである程度は仕方ない。
「我が甥が幼き頃は良き守り手に。少年の頃は良き遊び相手に。青年の時は良き理解者になるように」と、采梅の誕生とともに生まれ、贈られた月夜ですが、果たして彼女の行く末は今後どうなるのか。
彼女含めて周囲には問題児しかいないと思いますが、できるところまで頑張って欲しいなと思います。

采女と采梅

こちらもようやく明かせて嬉しい~のネタです。
Web掲載版の第十六筆「恋衣」時点でかなり分かりやすく示唆していたせいか、拙作をお読み頂いた方々から「采女(うねめ)=采梅(あやめ)ですか!?」とご感想を頂くこともちらほらありました。字も音も似ているので混乱を招きそうだなと心配していましたが、そのあたりはまだ何とかなっているようでほっとしております。
今をときめく狩野家の絵師として将軍家からの寵愛も厚く、また「かつての狩野探幽を彷彿とさせる」と言われるほどの腕前を持つ彼。
周囲から見れば大変に華やかな経歴を持つ恵まれた青年にも思われがちですが、実際のところ、彼は目に見えた幸福に囲まれて不幸になっている人間です。
というのも、こちらも別拙作「色彩~」の方で軽く示されていましたが、彼の本当の名も「采女」という雅号も、「狩野探幽」に由来するもので(探幽の幼名と雅号から来ています)、いずれの名も彼を彼たらしめているものではなく、誰も彼を彼として見ていないのです。
「狩野探幽の」「木挽町狩野家の」「画所の塾頭の」という枕詞がどこに行っても彼にはついてまわり、彼の“名”は有名な割にその実、骸と化しています。彼自身を彼として見ている人間は、この世にはほぼいません。
そんな現状に辟易し、絶望し、諦観を覚え、自由を求めるようになった結果、自ら新たに名付けた名が「采梅」というわけです。
采梅にとって、采梅として知り合った人々は唯一、自分を自分として見てくれる大切な存在です。裏の事情があるにしても、芦雪もその一人。
今は芦雪から敬愛の眼差しを一身に受ける采梅ですが、本編上でも何となく見て取れるように、何かしら考えたうえで裏でこそこそと動いていているようです。
わざわざ監視の目の少ない日を狙って芦雪を狩野家屋敷と画所へ招いたのも、大切な守絵を見せたのも、おとぎ話をたとえに出したのも、何か狙いがあってしたことのようですが、はてさてその狙いはいつ実ることやらというきもち。
しばらくは平和な藤芦を見守る者としてそっとしておいて欲しいなーとも思いつつ……。次回以降の采梅の動きに期待。

以上、解説のような書き散らしでした。
ここまでご覧頂きありがとうございます!