Afterword

第二十五筆「萌芽」

【あらすじ】
蓮見にと上野にやってきた芦雪と藤仁。しかし途中雨に降られ、見知らぬ店の軒を借りて雨宿りすることに。
するとその店の店主と思われる老婆が現れ、快く店の中に招き入れて……?

本話は天涯におけるターニングポイントとも言える話になっています。
今回は以下目次で解説のような書き散らしをお届け。
※クリックするとその内容に飛べます。

当時の盆屋(見合茶屋)とは

「江戸時代の人間がセッする時って自宅以外にどこがあったんだ??? そもそもラブホってあるの????」の疑問から始まって国会図書館で調査したのがことの発端です。調べたら江戸時代にもありました、ラブホ……びっくり……。
そうして出てきたのが、今回芦雪と藤仁が不可抗力で入ってしまった店、盆屋(見合茶屋)でした。盆屋というのは西での言い方で、江戸では見合茶屋の名で親しまれていたようです。
芦雪は京都出身であるため、盆屋としての名しか知りませんし、盆屋がある地域がどこにあるのかも京都のごく一部しか知りません。けれど「店の造りに覚えがあった」り、その既視感にも「幸之介と来た」というのがあったりと、かつて幸之介と利用していた過去がほのめかされています。
この事実を藤仁はまだ知りませんが、いずれ何らかの拍子に知ってしまった場合、芦雪はどうなってしまうのかは想像しかできません。藤仁はとんでもなく自分勝手で子どもな年下攻めであるため、雷雨の時のような癇癪を起こす可能性は高いと思われます。知らんけど。

とはいえ、盆屋を知ってはいても、芦雪は江戸の地域性や地理にはまだまだ疎いところがあるため、たまたま借りた軒先が盆屋だったとは勿論知りませんでした。不可抗力。
一方、藤仁は上野の池之端が見合茶屋の集合地帯だとは知っていたものの、借りた軒先がそうだったとは知らなかったようです。本当か????(本当です)
作中にあった通り、店の老婆と開かれた戸の先の店の雰囲気で気づきました。一瞬入るのを躊躇したというのに、結局売り言葉に買い言葉で芦雪を襲っているので、なけなしの理性も戸惑いも意味がありませんでした。出直してきてほしい。

蛇足ですが、現在の上野も不忍池の周辺にラブホが結構立ち並んでいます。
今では国立博物館があったり、大きな公園があったり、動物園があったりと文化的な側面が強そうに見えますが、上野の根っこの地域性は今も昔も変わらないようです。

藤芦の情事シチュエーション

今回は、前々から百合が「書きたい」「見たい」「すすりたい」で温め楽しみにしていたシチュエーション、「射精管理」を藤芦にしてもらいました。いざ文字にすると字面がやばい。書いて驚いています。
百合の癖(ヘキ)は「受けが攻めにする=芦雪が藤仁を管理する」のが最高最高最高of最高だと騒いでおりますが、話の流れから「攻めが受けにする=藤仁が芦雪を管理する」ことになってしまいました。これはこれで余裕のない藤仁が見れたため、満足ではありますが……。
次は芦雪くんに管理してもらおうと思います。させるよ。

今回の情事シーンに関しては、温め楽しみにしていた割に大変時間がかかったのと、前戯入れるかもぎりぎりまで悩みました。力量が足りなさ過ぎたので、結局芦雪の可愛い泣き喘ぎに頼らざるをえず……。製本する時に加筆修正するから良いんです! すみませんこれは言い訳です。
ちなみに、話の中では前戯描写はありませんが、前戯はきちんとしています。藤仁はどんなに焦っていても癇癪を起こしていても、芦雪の身体を酷く扱うことはないので、そのあたりはきっちりしているようです。
しかしながら、自棄と横暴で芦雪に手を出してるのは普通の倫理観からしてありえないと思いますし、このシチュエーションは芦雪の藤仁への好意と広い懐があってこそ成り立つものなので、藤仁は芦雪に感謝した方が良いなと書きながら思ったりなどしておりました。これはファンタジーでありBLであり、読者は二人の間にすれ違った好意があることを前提として知っているからこそ許されるものです。
物語に敷かれた限定的な法と芦雪の好意に守られてることに、藤仁は本当に感謝した方が良い(2回目)。

閑話休題。管理の方に話を戻しますが、そもそもの話として、何故藤仁は芦雪の手首をわざわざ千歳緑の髪紐で縛ったのか。
これは単純に幸之介への嫉妬です。藤仁も本来ならこんな使い方したくなかったと思います。
幸之介のように、芦雪と交換した髪紐として自分の髪を結い上げ、堂々と芦雪の隣を歩きたかった。それができなかったのは、藤仁の自制心の足りなさと子どもっぽい嫉妬と余裕のなさが原因です。君はもう少し精進してくれ。

藤仁の古傷

これまで物語上であまり触れてきませんでしたが、ようやく確信的な触れ方ができて満足な百合です。
藤仁の左手首(内側)には古傷がありますが、普通に生活している中では気づきにくい位置にあるので、芦雪も今回の話になるまでは気づきませんでした。
第二十筆「澪標」で何者かに藤仁が襲われていたとき、手首を握って何かに怯えていることには気づいていたものの、芦雪はそれ以上聞くことはしなかったようです。
藤仁が他人に心を閉ざしてしまっているのも、未来をみることを恐れているのも、芦雪にのみ心を開いているようにも見えるのも、全てこの古傷が関係しています。
作中で頻出する御伽話「怪画絵師と墨愛づる姫君」にも紐解くための要素が入っているので、絡まった糸がいずれ綺麗な糸になることを願いつつ、次回も更新を頑張ります!

以上、解説のような書き散らしでした。
ここまでご覧頂きありがとうございます!